フランス編

2003.07.15

時空を超え、既成概念を超え、オシャレ心花開く街の傘模様


パリの初夏。晴れ渡った日のシャンゼリゼ通り。40代半ばの貴婦人が金色を基調に、フリルの縁取りをあしらった日傘を差し、目の前を颯爽と通り過ぎる。明らかにレトロ調の日傘で、パリの街並みとよくマッチしている。思わずたずねてみると、「祖母の代から受け継がれた形見」とのこと。鯨の骨で作られた傘骨は丈夫そのもので、「傘屋で布を張り替えて大事に使っている」。日傘ですら親から子へ受け継がれ、街の片すみでは、古き良き時代のファッションが今も息づいている。さすが“巴里”と唸らされる奥深さがある。

もともとフランスの日傘は、1533年、のちにアンリ三世となるオルレアン公にイタリアのメディチ家から嫁いだカトレーヌ・ド・メディシスが嫁入り道具として持ち込んだのが事始めといわれている。その後、上流階級の間で日傘が大流行し、装飾を凝らした様々なタイプが登場した。パリはいつの時代もモードの発信地として欧州の紳士淑女の注目を集めてきたが、日傘もその中心的なアイテムであった。
さらに18世紀に入ると雨傘の本格生産もスタート。マリユスという傘メーカーは、折りたたみ式のポケットパラソルや重さ僅か150グラムの軽量傘を開発し、大々的に売り込んだ。その甲斐もあってか雨傘は庶民に普及。ロンドンではまだ雨傘を持つことさえ奇異な目で見られた時代に、パリでは、男女を問わず堂々と差していたわけだ。
さて、今のパリはというと、日差しが強い日、雨降りの日には、それぞれ個性的な日傘、雨傘のお披露目会となる。30年間彼の地で暮らしす知人は、「先日雨の日に街を歩いていたら、ビニールと布を交互に合わせた斬新で色目がキレイな雨傘を目にした」と、ビニール傘すらファッションに取りこんでしまうパリならではの傘事情を伝える。
また、現地では折り畳み傘をある変わった用途に使うのが流行り。同じく知人いわく、「カラフルで派手な折りたたみ傘を、たたんだまま柄だけを伸ばして、ツアーコンダクターが旗代わりに持って観光客を誘導する。観光スポットでは頻繁に見かける光景です」。
19世紀のレトロな日傘に最新モードの雨傘、さらに本来の用途にとらわれない発想。時空を超え、既成概念を超え、パリの人々のオシャレ心は、ファッションの街を鮮やかに彩っている。

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