世界の傘事情

世界の傘事情 バングラデシュ& ミャンマー編

バングラデシュ& ミャンマー編

バングラデシュでは格差が傘の普及を阻む?

バングラデシュと聞いて多くの人が思い浮かべるのが、洪水とサイクロンではないか。同国の気候は4~9月の雨季と10~3月の乾季に明確に分かれている。特に6~9月に年間降水量の7割近く降ると言われ、月間降水量は300mm以上と、東京の2~3倍に達する。雨季には全般的に低平地な国土の3~4割が水に浸かるとされる。国土は北海道と九州、四国を合わせた程度の広さ(日本の4割)にも関わらず、人口は世界8位、約1億6000万人の超過密国であり、洪水時の被害は毎年甚大だ。

それだけ雨が降るのだから、雨季にはさぞかし街中が傘で溢れると思いきや、じつはそうでもないらしい。現地に派遣されている日本人はこう話す。「バングラデシュの人たちは大きく二つの体型に分けられます。一つは体脂肪が1桁のやせ細った貧困層、もう一つが脂肪で体が丸々と肥えた金持ち。貧困層はそもそも傘を買う余力がなく、金持ちは車で移動して外を歩かないから傘は不要。そのため傘を差す人はそれほど多く見かけません」。

だが、金持ちが車を使う場合でも、車を降りてから建物に入るまでの間は傘が必要なはずだ。「それでも金持ちは自ら傘を差すことはない。すぐに介添人が駆け寄って傘を差しかけ、建物の入口まで雨に濡れるのを防いでくれるから」。 バングラデシュは、格差の程度を表す指標で、ゼロに近づくほど平等であることを示す「ジニ係数」が、1984年は0.350だったのが2010年には0.458に上昇。格差拡大が、この国で傘を差す習慣が広まっていない理由の一つと言えそうだ。

若者の間で流行る ミャンマー名物「傘デート」

一方、バングラデシュの隣国ミャンマーでは状況が一変し、雨が降れば街に色とりどりの傘が開かれる。日本に勝るとも劣らない、傘の使用人口が多い国であることは、過去にこのコーナーでも紹介した。 都市でも地方でも傘を売っている店は多い。日本からの傘の輸出量も、近年は毎年ミャンマーがトップ。日本製の傘は他国製のものに比べて丈夫で質が高く、人気だ。雨の日だけでなく、晴れた日も強烈な日差しをしのぐために、男女ともに多くが傘を差して歩くのも、この国ならではの特徴だ。

そして、ミャンマーで印象的な傘の使い方が、若者の間でブームになっている「傘デート」だ。最近はショッピングモールや映画館などが若者の娯楽の場になりつつあるが、元々カップルで訪れるデートスポットといえば、寺院や公園が定番。ただし、公園は昼間に訪れると人目につきやすい。「そこで、彼らが用いる秘密兵器が『傘』。傘を開いて2人だけの空間を作り、そこで存分に話を楽しむのです」と、アジア各国の事情に詳しいマーケティング会社「TNC」のスタッフは話す。

つまり、女性をエスコートする男性にとって傘はデートの必需品。いつでも2人の世界を作れるように、女性の横でたたまれた長傘を持ち歩く男性を寺院などで目にする機会も多い。通常より傘生地を深く張った、いわゆる「深張り」の傘であれば周囲からより見えにくい。ミャンマーで「デート用の傘」として売り出せば、案外ヒットするかもしれない。

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